令和4年野外調査No. 4(大隅半島・宮崎県最南部)

12月初頭から中旬にかけて大隅半島と宮崎県南部の野外調査に行ってきました。自腹なので結構好き勝手なところに。メインの研究内容にクリティカルではないものも少し見てきたので一部を備忘録がてらに記しておきます。

 

12/9-10にかけては大隅半島南部で主に調査。

 

錦江町馬場半ヶ石付近

鬼界アカホヤ噴火堆積物。Unit A (K-KyP/幸屋降下軽石)、Unit C(K-Ky/幸屋火砕流)、Unit D(K-Ahアカホヤ火山灰)が明瞭な境界をもって確認できます。

Unit Aは一見1サブユニットで構成されているように見えるが、ブラシで払うと最下部にやや連続性が悪いが極めて薄い単色の細粒軽石層が火山灰濃集層を挟んで存在します。

Unit Cは基底部に遊離結晶が濃集したground-layer ( Unit C3b, Maeno and Taniguchi(2007) )が明瞭に確認されます。末端部に近いこともありますが、層厚10㎝ほどと極めて薄く、LARIっぷりを改めて感じる次第(語彙力)。

Unit Dは、比較的粗粒な軽石や火山豆石の濃集からなる基底が明瞭に確認されます。恐らく灰神楽から真っ先に落ちてきた諸々。

 

錦江町田代麓重岳

鬼界アカホヤ噴火堆積物のうちUnit A。

サブユニットの存在が明瞭に確認される。この露頭では大きく3つ。本土でのUnit Aサブユニットに関してはJpGU2022でもポスター発表したが(閑古鳥が鳴いていて寂しかった)、近傍にも追っていきたいところ。JpGU2023か火山学会で発表できるかな。

 

南大隅町佐多郡竹之浦

鬼界アカホヤ噴火堆積物のうちUnit A。

先ほどの場所よりもより分布軸に近い大隅半島南端部。

ここでもサブユニットの存在が明瞭に確認され、細かく分ければ5つ以上になります。そのうち薄い層は本土での追跡があまり出来ないので現状ではひっくるめて3つに大別しているけれど。

ここでは写真として示していませんが、本露頭でのUnit D基底部は火山豆石を欠いています。宇井(1973)で指摘されているように、火山豆石の存在は(鹿児島県南端部では)結構局所的であって、割と局所的な気象条件や(Walker+1982で提案されているように)Unit Cの二次爆発に起因するものだと僕は思っています。Unit C自体が噴出時に水付きだったから火山豆石が出来たとかそういうのでは恐らくない(水が付いていた可能性自体は否定できないけど)。

 

宿は毎度おなじみのビジネスホテルしらさぎ

 

12/10は志布志方面にも足を伸ばし、夏井海岸にある有名な入戸火砕流の露頭を見てきました。

 

全体像。

上半分はほとんど入戸火砕流(A-Ito)。下位に層厚2mほどの大隅降下軽石(A-Os)。

基盤は阿多火砕流らしい(宝田ほか, 2022)。

 

A-Osはおそらくreworkしています。A-Osの堆積からA-Itoが来るまでにある程度の時間があったということなのでしょうか?

 

A-Itは弱溶結。

右から左(北東から南西方向)への流向を示唆する軽石のimbricationが結構綺麗に見えます。給源(姶良カルデラ)から本露頭への方位とは全く異なるので、やっぱりlocalな地形の影響を強く受けていそう。

 

12/11-12にかけては宮崎県南部で調査。

 

串間市都井岬

鬼界アカホヤ噴火堆積物。Unit AとUnit Dが確認されます。

Unit Aは単層。上位にあるUnit Dとの明瞭な境界がつかみにくいですが、僕は火山豆石や粗粒軽石の濃集層より上はUnit Dとして扱っています。

 

Unit Aに穴を掘って冬眠していたトカゲちゃん。起こしてごめんね。

 

馬。

 

都井岬

 

都井神社。本殿は到達不可能なので遥拝。

 

12/13は帰るだけでしたが、暇になったので宝田ほか(2022)を参考に垂水火砕流の有名な露頭を見学しました。

 

垂水市中俣浦谷

垂水火砕流デューン構造が綺麗。恐らく大雑把には右から左(北から南)への流向かな?

 

上の写真に対してほぼ垂直方向に切った露頭。

基底部はA-Osと指交関係にあり、挟在するA-Osの粒径から(少なくとも初期は)噴煙柱の部分崩壊によって生じたとされているそうです(福島・小林, 2000)。

トラフ状斜交層理が見えないのでおそらく2Dデューンデューンが3Dか2Dかで密度流のパラメータを上手く縛れたりすると面白そうですが、その辺の知識が根本的に足りていないので合掌。

 

本当は宝田ほか(2022)に載っている他の露頭も色々見に行きたかったのですが、この露頭の奥で縁石に車体を擦ってしまい事故処理に追われた結果時間切れとなってしまいました…

 

鹿児島空港でお土産を買いました。いつもは薩摩芋タルトなのですが、同期から飽きたと言われたので変えてみました。

 

以上、12月野外調査でした。次回は1月に種子島の予定です。

Rogiers et al.(2022), Geophys. J. Int.;降下テフラの噴出量推定に関するメモ書き

研究の関係上降下テフラの噴出量推定に関する論文は少し漁っているつもりですが、今春こんな論文が出ていたので今回はこれを叩き台に幾つか感想という名の戯言を書き連ねていきたいと思います。

 

     Rogiers et al.(2022), Geophys. J. Int.

     Estimating tephra fall volume from point-referenced thickness measurements

 

doi.org

 

降下テフラの噴出量推定手法は、今は廃れたように思える結晶法の系譜(日本の火山学界隈が何故か未だによく使う早川法もここに含めることとする)を除くと

 ①等層厚線の層厚-(面積)^(1/2)図を描いて経験式でフィッティングする

 ②移流拡散モデルに基づくインバージョン

の2つに大別されると思いますが、②は給源強度関数や風速場に敏感だったり、パラメータが多かったり、粒度分析をしにくい保存状態が悪いテフラ層には不向きだったり…と今僕がやっている有史以前の噴火に関しては扱いにくい面がありそうなので、今のところは①に着目しています(と言いつつ実は単にC言語に触れたくないだけ…)。噴出率とか他のパラメータとも関連付けられてそれはそれで楽しそうだし、いずれはTephra2なりWTも弄ってみたいですね。

 

①の手法に関して頻繁に使われる有名どころは以下のようなものでしょうか。

 

     Pyle(1989), Bull. Volcanol.

          The thickness, volume and grainsize of tephra fall deposits

          https://doi.org/10.1007/BF01086757

     Fierstein and Nathenson(1992), Bull. Volcanol.

          Another look at the calculation of fallout tephra volumes

          https://doi.org/10.1007/BF00278005

     Bonadonna and Houghton(2005), Bull. Volcanol.

          Total grain-size distribution and volume of tephra-fall deposits

          https://doi.org/10.1007/s00445-004-0386-2

     Bonadonna and Costa(2012), Geology.

          Estimating the volume of tephra deposits: A new simple strategy

          https://doi.org/10.1130/G32769.1

 

Pyle(1989)とFierstein and Nathenson(1992)は指数関数、Bonadonna and Houghton(2005)はべき関数、Bonadonna and Costa(2012)はWeibull関数をそれぞれ使っています。最近は4番目のものを使った論文が多く出始めている印象。

この4手法、噴出量推定値に結構な差が出ます。下は卒論やJpGU2022で僕が某テフラに適用した結果です。

 

さて、ここまで色々話してきましたが、この話をとあるゼミでしたところある先輩からこんな指摘が飛び出してきました。

 「その推定値の信頼区間はどれくらいなんですか?そもそもその等層厚線に信頼性はどれくらいあるんですか?」

…正直言葉に詰まりました。噴出量もそうですが、火山地質学の世界では数値に信頼区間を付ける習慣がほとんど無いように見えます。火山学の外の人から言われるまでそんなに気にしていませんでしたが、確かにまずいですね。

 

というわけで、今年度初めくらいは火山地質学における噴火パラメータ推定値に信頼区間を付ける論文をいくらか読んでいました。

 

     Biass et al.(2014), Stat. Volcanol.

          TError: towards a better quantification of the uncertainty propagated during the characterization of tephra deposits

          https://doi.org/10.5038/2163-338x.1.2

     Biass et al.(2019), J. Appl. Volcanol.

          A step-by-step evaluation of empirical methods to quantify eruption source parameters from tephra-fall deposits

          https://doi.org/10.1186/s13617-018-0081-1

 

どちらもBonadonna一派のところですね。2つありますが、手法の要諦は同じです。要は、今までと同じように手書きで等層厚線を描いて、その層厚や囲まれる面積の信頼度を適当に決めてやれば、後はフィッテング時の誤差伝播を考えれば噴出量推定値にも信頼区間らしきものが出てきます。余談ですがMatlabコードが配布されているので僕みたいなプログラミング弱者にもとっつきやすい。

 

しかし、僕は前々から思っていることがありました。

 「そもそも等層厚線を人間が描いている以上そこに何らかの恣意性が入り込んでしまうのでは?」

そんな一例として良いのは下の論文でしょうか。阿蘇4の噴出量推定に関するものですが、本論文中で示されている阿蘇4火山灰の等層厚線に関してはこの疑問点が常に付きまとっているように見えます。

 

     Takarada and Hoshiizumi(2020), Front. Earth Sci.

          Distribution and Eruptive Volume of Aso-4 Pyroclastic Density Current and Tephra Fall Deposits, Japan: A M8 Super-Eruption

          https://doi.org/10.3389/feart.2020.00170

 

等層厚線に関してはEngwellらがCubic-Bスプライン曲線を用いて色々やっていたのをちらっと見ましたが、コードが配られていなかったのでそのまま読まなかったことにしています。プログラミング弱者はつらい。

そんな折、指導教員からある論文を紹介されました。それが冒頭に述べたRogiers et al.(2022)という訳です。

 

Rogiers at al.(2022)の手法の要諦は以下のような感じです。とは言っても、等層厚線描画時のアルゴリズムの仔細に関してはほとんど理解出来ませんでしたが…

 

 層厚地点データとその信頼度の付与

  →Box-Cox変換による層厚データの正規分布

  → Delaunay triangulationを用いた仮想地点の創出

  →楕円をbasic functionとしてLASSOを用いたフィッティングによる等層厚線の描画(この箇所は特に難解で最も理解できなかった)

  →積分して噴出量を算出

 

かなり難解なシロモノですが、等層厚線描画時の恣意性を排除していること、層厚データそのものを確率変数化して厳密に統計学的議論を試みているのは魅力的です。

 

さて、本論文ではR言語によるコードが配られています。というかこれが僕の興味を惹いた主因。今回はこのコードで鬼界アカホヤ火山灰の噴出量を推定してみます。これ研究室ゼミで発表はしたんですが指導教員様の反応が芳しくなかったので此処で供養。

 

Supplementary Dataのところにzipファイルが置かれているので解凍して中身を見てみるとこんな具合。

pdfファイルは筆者らが実際に阿蘇4テフラに適用した結果の図なのでこれを使う上では要りません。削除。必要なのはtephra4_3, randomBasisと層厚データ(論文中では20210805_Aso4_Tephra)です。

 

層厚データは一定のフォーマットで書かれないと上手く読み取ってくれません。今回は鬼界アカホヤ火山灰の噴出量推定ということで、僕が今までやったフィールド調査や諸々の論文や遺跡発掘調査報告書から取り敢えず層厚データを引っ張ってきて20210805_Aso4_Tephraを書き換えていきます。

Identification_uncertainyやThickness_uncertaintyが信頼度付与の部分です。

 

次にコードを書き換えます。弄るのはtephra4_3の方です。

元のコードは阿蘇4なので、取り敢えずこれを全部鬼界アカホヤに書き換える。



給源火口の位置を打ち込みます。

 

pseudo-thicknessという手描き層厚線データを打ち込んでやります。これはアルゴリズムを走らせる際に実際の層厚データが無い地域を変な風に扱わないようにするためのものです。

 

配られているコードでは常に同じ図を吐くように乱数を調整していますが、実際に使う上ではエラーの元なのでコメントアウト(44行目)。これ本当にやっていいのかは正直分かりませんが…

これでコードの方の準備は多分大丈夫です。

 

次にこのコードを走らせます。次のパッケージをインストールする必要があります。

    data.table

    magrittr

    deldir

    polyclip

    gmlnet

    sp

他にある場合はコンソール画面で教えてくれます(適当)。

では動かしていきましょう。コマンドは

     source("tephra4_3.R")

です。

止まるまでに結構時間がかかりますが、最終的にこんな画面が出てきます。

 

見かけ噴出量の95%信頼区間98-140㎦と推定されました。この値は町田・新井(2003)による推定値(>100㎦)と大体同じオーダーですね。描かれた等層厚線図は下の通りです。

一般的に等層厚線図は層厚データの最大値を囲むように描かれることが多いですが、見ても分かるようにRogiersのアルゴリズムに基づいて描いたそれはそのようになっていません。そのため、上で示した95%信頼区間は、これまでのように人間のある意味「勘」によって描かれた等層厚線図に基づく推定値よりも小さいものとなっていることが想定されます。

 

さて、ここまでRogiersのアルゴリズムで遊んできましたが、では今までのように人間が描いた等層厚線をフィッティングする手法と比較した際に、この手法が客観性はともかく正確性の意味で本当に有利なのか?というのは僕には正直分かりません。理由としては、層厚データが原層厚を中心とした正規分布に従う根拠は無く、削剥によって薄くなることは頻繁にあっても、著しく厚くなることはそれほど多くないと考えられるからです。

結局、噴出量推定は手法やフィッティング関数によって数倍程度は変わってきてしまうのが普通なので、Rogiersらも本論文の中でしつこく言っているように噴出量を1つの値として示すのではなく、(出来れば複数の手法で推定しつつ)ある程度の幅で示すのが望ましいのでしょう(適当)。

 

以上、最後は投げやりですがRogiers+2022のコードで遊んでみた結果でした。

ブログ始めました

140文字で書き切れない諸々を書き殴る場所が欲しかったのでブログを始めました。続くかどうかは不明。続いたとしても頻繁に更新する感じにはならないと思います。

学業や研究に関すること、趣味に関することなど取り敢えず何でも良いので心に浮かんだ雑多な内容を取り留めなく書き連ねていけたら良いな。